
こんにちは、松井歯科医院院長の松井です。
「歯医者に行かないといけないのは分かっている。でも、あの感覚を思い出すと、どうしても足が向かない」
そういう方が、いらっしゃると思います。
・型取りの途中でえずいてしまって、涙が出た
・器具が奥に入るだけで、こみ上げてくる感じがする
・「動かないでくださいね」と言われても、我慢できずに手を上げてしまった
・それが恥ずかしくて、治療の途中で通うのをやめてしまった
そして、何年も歯科医院から遠ざかってしまっている。
この記事は、そういう方に向けて書いています。今日ご予約いただく必要はありません。まずは、なぜそうなるのか、どんな方法があるのかだけでも知っていただければと思います。
嘔吐反射とは

最初に、はっきりとお伝えしておきたいことがあります。
えずいてしまうのは、我慢が足りないからではありません。
これは「嘔吐反射」または「絞扼反射(こうやくはんしゃ)」と呼ばれる、体を守るための反射です。舌の付け根や上あごの奥、喉の周辺に何かが触れると、体が「異物が入ってきた」と判断して外に出そうとする。そういう仕組みが、もともと備わっているんです。
気道に物が入らないようにするための、大事な機能なんですね。意志の力でどうにかできるものではありません。
ただ、この反射の出やすさには、かなりの個人差があります。強く出る状態は「異常絞扼反射」と呼ばれ、背景にはいくつかの要因があると言われています。
・お口の形やあごの大きさなど、体の構造による要因
・全身の体調や、鼻づまりなど呼吸に関わる要因
・過去の歯科治療でつらい思いをした経験など、心理的な要因
どれか一つというより、複数が重なっていることのほうが多いように思います。
特に3つめが厄介なところで、「前にえずいてしまった」という記憶が、次の治療でさらに反射を出やすくしてしまうことがあります。だから「気合いで乗り切ろう」とするほど、かえってつらくなってしまうんです。
ご自身を責める必要は、まったくありません。
歯科治療のどの場面で起きやすいか

どの場面がつらいかは、人によって違います。ご自身がどこで苦しくなるのかを知っておくと、事前に伝えやすくなります。
|型取り
最も多く挙げられる場面です。トレーが大きく、印象材が喉の奥まで広がってくる感覚があり、しかも固まるまで途中でやめられません。この「逃げ場のなさ」が、特につらいところだと思います。
|レントゲン撮影
お口の中にフィルムやセンサーを入れて撮影する方法では、それが当たることで反射が出ることがあります。特に、奥歯を撮るときに強く出やすいです。
|奥歯の治療
器具やミラーが奥に入るだけで、こみ上げてくる感じがする方もいらっしゃいます。お口を大きく開け続けること自体が負担になることもあります。
|バキューム(吸引の器具)
唾液や水を吸い取る器具が、舌の付け根に触れて反射が出ることがあります。
|あお向けの姿勢そのもの
治療内容にかかわらず、あお向けになると唾液が喉に流れる感覚が強くなり、それだけでつらくなる方もいらっしゃいます。
自分でできる対処法

すべての方に効くというものではありませんが、試してみる価値のある方法をご紹介します。
|鼻でゆっくり呼吸する
口で息をしようとすると、どうしても喉の奥に意識が集中してしまいます。鼻からゆっくり吸って、ゆっくり吐く。これを意識するだけでも変わってきます。鼻づまりがある日は、あらかじめお伝えください。
|姿勢を起こしてもらう
あお向けだと、唾液や材料が喉のほうへ流れてくる感覚が強くなります。背もたれを少し起こして、やや前かがみの姿勢にすると楽になる方が多いです。遠慮なくお申し出ください。
|食後すぐの時間帯を避ける
満腹の状態だと反射が出やすくなることがあります。ご予約の時間帯を工夫するのも、一つの方法です。
|意識を別のところに向ける
手を強く握る、足の指を動かす、頭の中で数を数える。お口以外のことに意識を向けると、反射が和らぐことがあります。単純なようですが、実際に効果を感じる方はいらっしゃいます。
|前日によく眠っておく
体調が悪いときや疲れているときは、反射が出やすくなる傾向があります。可能であれば、体調の良い日にご予約ください。
歯科医院側でできる工夫

こちら側でできることも、いろいろあります。ただし、事前に教えていただけないと何も準備ができません。ここが一番大事なところです。
|合図を決めておく
「苦しくなったら左手を上げてください」というように、最初に合図を決めます。「いつでもやめられる」と分かっているだけで、気持ちがずいぶん楽になるものです。実際、これだけで乗り切れる方もいらっしゃいます。
|短い時間で区切る
一度に長く続けず、こまめに休憩を入れながら進めます。時間はかかりますが、そのほうが結果として早く終わることも多いです。
|トレーのサイズや形を調整する
お口の大きさに合わないトレーは、異物感が強くなります。小さめのものを選んだり、形を調整したりすることで、負担を減らせる場合があります。
|レントゲンの撮り方を変える
お口の中にフィルムを入れる方法がつらい場合、お口の外から撮影する方法(パノラマ撮影)で代えられることがあります。すべての診断が代替できるわけではありませんが、選択肢としてご相談ください。
|声をかけながら進める
「あと10秒です」「今どのあたりです」と伝えるだけでも、見通しが立って楽になることがあります。何も言われずに続くのが、一番つらいものですから。
型取り材を使わない方法について

そして、型取りについてはもう一つ、選択肢があります。
印象材をまったく使わない「光学印象(こうがくいんしょう)」という方法です。ペン型のカメラをお口の中に入れて、歯の表面をなぞるように撮影していきます。使用する機器は「口腔内スキャナー」と呼ばれます。
嘔吐反射でお困りの方にとって、この方法には大きな違いがあります。
・お口の中で材料を固める工程がありません
・喉の奥まで材料が広がってくる感覚がありません
・独特の味やにおいがありません
・苦しくなったら、その時点でカメラを外せます。そして続きから再開できます
特に最後の点です。「固まるまで我慢しなければ」という状況が、そもそも生まれません。
当院でも、この口腔内スキャナーを導入しております。
当院の口腔内スキャナーについては、こちらでご紹介しています。
▶ 口腔内スキャナーを導入しました|神戸駅徒歩5分の松井歯科医院
ただし、正直にお伝えしておきます。すべての治療に使えるわけではありませんし、カメラの先端はお口の中に入りますので、「絶対にえずかない」とお約束できるものでもありません。感じ方には個人差があります。
それでも、選択肢が一つ増えるということ自体に意味があるのではないかと思っています。
型取りが苦しい理由と、その対処法については、こちらの記事でも詳しくご説明しています。
▶ 歯の型取りが苦しい・えずいてしまう方へ|光学印象という選択肢
まずは相談だけでも

ここまでお読みいただいて、それでも足が向かないという方もいらっしゃると思います。
この記事を読んでおられる方が一番心配されているのは、おそらく「行ったら、その場で無理やり治療を進められるのではないか」ということではないでしょうか。
そこは、はっきりお伝えしておきます。
治療を受けるかどうかは、決めずに来ていただいて構いません。
お話を聞かせていただくだけの日があっても、まったく問題ありません。
・どんなことが不安なのか
・過去にどんなつらい経験があったのか
・どこまでなら大丈夫そうか
こうしたことを最初に共有できるだけで、進め方はいくらでも工夫できます。
「大人なのに情けない」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、そんなふうに思われる必要はまったくありません。反射の強さは体質のようなもので、ご本人の努力の問題ではないのですから。
何年も来られていなかったことを、責めるようなこともいたしません。むしろ、また来ようと思ってくださったことのほうが、私たちにとってはありがたいことですので。
よくあるご質問
|治療を受けずに相談だけでも大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。お話を伺うだけの日があっても構いません。その日に何をするかは、ご相談のうえで決めさせていただきます。無理に治療を進めることはいたしません。
|途中で中断してもらえますか?
もちろんです。最初に合図の方法を決めておきますので、苦しくなったら遠慮なく伝えてください。ただし、従来の型取りで印象材が固まり始めている場合など、すぐには外せない場面もあります。そういう工程があるかどうかも、事前にご説明します。
|レントゲンもえずいてしまいます
お口の中にフィルムを入れる撮影がつらい場合は、お口の外から撮影する方法で代えられることがあります。すべての診断が代替できるわけではありませんが、まずはお申し出ください。撮り方や姿勢の工夫でも変わってきます。
|えずきやすいことを伝えるのは、迷惑ではないですか?
まったく迷惑ではありません。むしろ、教えていただけると本当に助かります。何もおっしゃらずに我慢されて、途中でつらい思いをさせてしまうほうが、お互いにとって残念な結果になってしまいますので。
|何年も歯医者に行っていないのですが、大丈夫でしょうか?
大丈夫です。どのくらい間が空いていても、責めるようなことはいたしません。まずは、お口の状態を拝見させてください。そのうえで、どこから始めるのがよいかをご相談させて頂きます。
まとめ
今回は、嘔吐反射が強い方の歯科治療についてご説明させて頂きました。
・えずいてしまうのは体を守るための反射で、我慢が足りないわけではありません
・型取り・レントゲン・奥歯の治療などで起きやすくなります
・鼻呼吸、姿勢、意識の分散などで軽くなる場合があります
・合図を決める、短く区切るなど、医院側でできる工夫もあります
・印象材を使わない「光学印象」という方法もあります(適応には制限があります)
・何より、事前に伝えていただくことが一番の対策です
嘔吐反射があるというだけで、治療そのものをあきらめてしまわれる方がいらっしゃいます。それは本当にもったいないことだと思うんです。
今日すぐでなくても構いません。「そろそろかな」と思われたときに、思い出していただければ嬉しく思います。
当院はJR神戸駅から徒歩5分のところにあります。
自由診療に関するご案内
このページでご紹介している口腔内スキャナーによる光学印象は、一部の自由診療において使用しております。自由診療は公的医療保険が適用されず、費用は全額自己負担となります。
|主なリスク・副作用について
・お口の状態によっては、光学印象での対応ができない場合があります
・撮影中に不快感を覚える場合があります(感じ方には個人差があります)
・被せ物は、噛み合わせや使用状況によって、破損や脱離が起こる場合があります
・治療後に、しみる・違和感があるなどの症状が出る場合があります
・治療の効果や経過には個人差があり、すべての方に同じ結果をお約束するものではありません
|費用について
治療内容やお口の状態によって異なりますので、診察のうえでお見積りをご提示いたします。費用についてのご説明を十分に行い、ご納得いただいてから治療を開始いたします。
ご相談・ご予約
お電話のほか、ページ上部の「WEB予約」からも24時間ご予約いただけます。
・電話番号:078-381-6484
・診療時間:9:00~13:00/14:30~19:00(土曜の午後は14:00~17:00)
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